永遠に蒸発しないブラックホールと、売上ゼロの経営コンサルタントについての、いくつかの考察

No. 899

合理的なブタブラックホール場の量子論
# 永遠に蒸発しないブラックホールと、売上ゼロの経営コンサルタントについての、いくつかの考察 第1773都市ハートフル・ロンドにおける大晦日の夜というものは、他の都市のそれとは決定的に異なる点があった。すなわち、百万年続く不景気のせいで、誰も新年を祝う気力が残っていないという点である。 私の名前はP・ベーコンという。「P」が何の略かは、誰も訊いたことがない(※注:私自身も知らない)。 「オイ、ベーコン。こんなショボい街には見切りをつけて首都に行くんだろ? さっさと荷物まとめろダゼ」 そう急かすのは、私のアシスタントであるフライドチキン・S——ヒヨコ型AIドローンである。中古で買ったとき、なぜか異常に安かった理由は、彼の口を開くたびに明らかになる。 「落ち着きたまえ、S。これは戦略的転進だ。合理的な判断に基づく、計画的な——」 「夜逃げだろ」 「……戦略的転進だ」 事務所の窓の外には、霧に沈むハートフル・ロンドの歪んだ時計塔が見えた。時計の針は百万年前から同じ時刻を指している。誰も直そうとしない。直しても意味がないからだ。この街では、時間が進んでも何も変わらない。 私は眼鏡の位置を直した。エラーとしてイースター・トリニティ空間から排出されて以来、この眼鏡だけが私のアイデンティティだった。合理的なブタ。マルチバースで唯一の。 売上高ゼロ。顧客ゼロ。猫探しの依頼すら来なくなった事務所の1周年を前に、私は決断した。首都第1都市への進出。そこでは新時代皇帝選出コンペが開催中で、ブックメーカーの賭けに合理的に参加すれば—— 「オイ、あの宇宙船、鍵さしっぱなしダゼ」 Sが指さした先に、ニューイヤーパーティーで酔い潰れた誰かの宇宙船があった。 「これは……捨て船だな」 「絶対違うダゼ」 「合理的に考えて、鍵を挿しっぱなしにする船は、捨てられた船だ」 私は宇宙船に「ネオ・エクセレント・ブリリアント・カクテル-P」と命名し、発進ボタンを押した。 --- 首都への航路は、超宇宙帝国の官僚主義的な法規制のおかげで、驚くほど退屈だった。速度制限、停止義務、申請書類の提出——すべてが合理的に設計されているはずなのに、なぜか何一つ合理的に機能していない。 「ベーコン、あの警報なんダ?」 計器盤が赤く点滅していた。 『荷電ブラックホール災害警報。航路上に臨界電荷ブラックホールが出現。全船舶は即座に回避せよ』 「回避しろって言われても、もう重力井戸に入ってるゼ!」 私は計器を確認した。燃料残量、危機的。脱出速度到達、不可能。 「待て、S。このブラックホールのデータを見ろ」 「見てる場合か!」 「いや、見る価値がある。このブラックホールは……蒸発しない」 通常、ブラックホールは時間とともに蒸発する。ホーキング放射とかいう、私には完全には理解できない何かによって。しかしこのブラックホールは「臨界電荷」を超えていた。電荷を失うには重い粒子を放出する必要があるが、その確率は——私の計算によれば——e的にマイナスN log Nのオーダーで抑制されている。 つまり、永遠に動けない。 「まるで私の人生だな」と私は呟いた。 「感傷に浸ってる場合じゃねーダゼ!」 --- 漂流を始めて三時間。燃料は底をつき、私たちはブラックホールの周囲を永遠に周回する運命を受け入れつつあった。 そのとき、通信が入った。 『……聞こえますか』 ノイズの向こうに、か細い声があった。 「こちらネオ・エクセレント・ブリリアント・カクテル-P。誰だ?」 『クォークコロナです。ブラックホールの周囲に形成された、私たちの集合体』 私は窓の外を見た。ブラックホールの事象の地平線から、光の弦のようなものが無数に伸びていた。その先端に、かすかに輝く粒子たちがいた。 「あなたたちは……ずっとそこにいるのか?」 『ええ。私たちは弦に繋がれています。出ることも、入ることもできない。永遠にここを周回するだけです』 「それは……辛くないのか?」 沈黙があった。そして、クォークコロナは笑ったような気がした。 『辛い? なぜです? 私たちは動けないのだから、動く必要がありません。存在することだけが、私たちの仕事です』 私は眼鏡を外し、拭いた。霧で曇っていたわけではない。ただ、何かをする必要があった。 「私は百万年間、動こうとして動けなかった」 『それは大変でしたね』 「動けることの価値を、考えたこともなかった」 『動けることは、素晴らしいことです。私たちには想像もできない自由です。だからこそ——使ってください。どこへ向かうかわからなくても』 「オイ、ベーコン!」 Sの声が割り込んだ。 「この宇宙船、チキンレースモードがあるダゼ!」 「何だそれは」 「知らねーよ! でも、前の持ち主が走り屋だったのかもしれねー。重力スリングショットの自動計算機能付きダゼ!」 私は計算を始めた。ブラックホールの重力を利用して、脱出速度を得る。角度は……いや、燃料が…… 「合理的に考えて、成功確率は——」 「計算してる場合じゃねーダゼ! いくぞ!」 Sがボタンを押した。 宇宙船が加速した。重力が私を座席に押しつけた。視界の端で、クォークコロナたちが光っていた。 『さようなら、動けるものよ。良い旅を』 --- 私たちは脱出した。 ただし、軌道計算がわずかにずれたため、首都とは正反対の方向へ飛ばされた。新時代皇帝選出コンペは終わり、光エーテル生命体が選ばれたというニュースを、どこかの中継惑星で聞いた。私がグラビトン型生命体に賭けようとしていたオッズ10倍は、永遠に失われた。 「で、これからどうすんダゼ?」 Sが訊いた。私は窓の外を見た。見知らぬ星々が流れていく。 「わからない」 「それ、合理的じゃねーダゼ」 「そうだな」 私は紅茶を淹れた。どこから持ってきたのか、マフィンもあった。 「でも、動けることには価値がある。永遠に蒸発しないブラックホールが教えてくれた」 「何言ってんだかわかんねーダゼ」 「私もだ」 宇宙船「ネオ・エクセレント・ブリリアント・カクテル-P」は、未知の航路を進んでいく。売上高ゼロの経営コンサルタントと、落ち着きのないヒヨコ型AIを乗せて。 どこへ向かうかは、まだ誰も知らない。 --- **生成日時**: 2025-12-23 23:12 **参考論文**: Charged black holes in the 1/N expansion **論文リンク**: http://arxiv.org/abs/2512.15855v1 この作品はarXivに公開された科学論文からインスピレーションを得て、AIにより生成されたAI小説です。 🤖 Generated with [Claude Code](https://claude.com/claude-code)