無限闘技場の新年

No. 980

300億歳のエルフ量子情報マルチバース
# 無限闘技場の新年  新年まで、あと三十七分。  ミルコメダ銀河の辺境で、わたしは途方に暮れていた。  ハビタブルゾーン・リゾート「琥珀の湯惑星」は、予約なしでも入れるはずだった。だが到着してみれば、駐機場は宇宙船でぎっしり埋まり、温泉からは歓声が宇宙空間にまで響いていた。年越しカウントダウンだの、ミルコメダ連邦銀河新年フェスだの、賑やかなことこの上ない。  三百億年も生きていると、静かな新年を過ごしたくなるものだ。  わたしは宇宙船の操縦席で溜息をついた。湯気の立つ温泉に浸かりながら、故郷のことでも思い出そうと思っていたのに。  エルフの森銀河。別の物理法則を持つ、わたしの生まれた宇宙。光エーテルが満ちていて、新年には空一面に花火が上がった。あの花火のことを、わたしはまだ覚えている。淡い紫と、銀色と、透き通った緑と。記憶は曖昧になりつつあるけれど、美しかったことだけは確かだ。  でも、この宇宙にはもう光エーテルはほとんど残っていない。 「次の候補地を表示する?」  船のナビゲーションAIが尋ねてきた。わたしは首を振った。 「いいわ、少し飛ぶだけ飛んでみる」  静かな場所さえあればいい。温泉でなくても構わない。三十七分後に一人で「あけましておめでとう」と呟ければ、それで十分だ。  そうして辺境宙域を漂っていると、奇妙な構造物が見えてきた。  円形の、巨大な闘技場。  石造りのように見えるが、素材は明らかに違う。表面には複雑な幾何学模様が刻まれており、中央のアリーナはぽっかりと暗い穴のように虚空を見つめていた。誰もいない。廃墟のようだった。  ナビゲーションAIがデータベースを検索する。 「該当施設:インフィニット・コロッセウム。建造時期不明。建造者不明。用途不明。危険度……データなし」 「用途不明って、何をする場所なの?」 「不明デス」  わたしは少し迷った。でも、これ以上静かな場所はなさそうだった。新年まであと二十三分。せめてここで迎えよう。  着陸して、闘技場の中に足を踏み入れた瞬間だった。  世界が、裂けた。  いや、そう感じただけかもしれない。実際には、わたしは闘技場の中央に立っていた。そして、わたしの周囲を取り囲むように、無数の「わたし」がいた。  二人や三人ではない。数百、数千、いや、もっとだ。観客席を埋め尽くすほどの「わたし」が、全員こちらを見ていた。 「……なに、これ」  わたしが呟くと、無数のわたしも同時に呟いた。声がエコーのように重なって、くらくらするような音響になった。  天井から、古い文字が浮かび上がる。 『クロスエントロピー・コンペティション開始。テーマ「最も美しい新年の記憶」。勝者には光の粒が贈られる』 「待って、わたし、参加するなんて一言も……」  言い終わる前に、最初の「わたし」が立ち上がった。  観客席の最前列にいた、少し若く見えるわたしだった。いや、見た目はほとんど変わらない。でも、雰囲気が違う。どこか必死で、焦っていた。 「わたしの記憶を見て」  その瞬間、彼女の記憶がアリーナ全体に投影された。  光エーテルを集めている映像だった。ガラス瓶のような容器に、少しずつ、少しずつ。彼女は何百年もかけて光エーテルを集め、自分で花火を作ろうとしていた。でも、最後の一欠片が足りなかった。容器は空のまま、彼女の手の中で砕けた。 「失敗した」彼女は言った。「だからまだ、探してる」  次の「わたし」が立ち上がった。別の観客席から。 「わたしの記憶を見て」  今度は、故郷が映し出された。エルフの森銀河。光エーテルに満ちた空。新年の花火。でも、その花火を見ているのは、わたし一人だった。周りに誰もいない。 「皆が旅立った後に残ったの」彼女は言った。「最後の花火を、一人で見た」  次々と、分岐したわたしたちが記憶を見せていった。  故郷を忘れてしまったわたし。故郷を探し続けて一千億年のわたし。故郷が無事で、今も帰れるわたし。光エーテルを見たことがないわたし。  どれも、わたしだった。どれも、わたしではなかった。  わたしは中央で立ち尽くしたまま、無数の記憶を見続けた。  どれが一番美しいのかなんて、わからなかった。どの記憶にも、寂しさがあった。どの記憶にも、何か大切なものがあった。  新年まで、あと三分。  わたしは、ようやく口を開いた。 「わたしの記憶は、たぶん一番ぼんやりしてる」  観客席が静まり返った。 「花火の色も、もう正確には思い出せない。でも」  わたしは胸に手を当てた。 「綺麗だったってことだけは、ずっと覚えてる。それを誰かと一緒に見たかったってことも。静かな新年がいいと思ってたけど、本当は……そうじゃなかったのかもしれない」  沈黙。  そして、天井の文字が変わった。 『コンペティション終了。勝者:全員』  え、と思う暇もなく、無数のわたしたちが一斉に光り始めた。いや、消え始めたのだ。一人、また一人と光の粒になって、空中に溶けていく。 「待って」  わたしは手を伸ばした。 「わたしたち、また会える?」  返事はなかった。でも、最後に消えていくわたしが、微笑んだ気がした。  全員が消えた後、アリーナの中央に、小さな光の粒が残っていた。  淡く、儚く、でも確かに光るそれは——光エーテルだった。  ほんの僅か。花火一つ分にすら足りない。でも、全ての並行宇宙のわたしたちから、少しずつ集められた欠片。  新年まで、あと十秒。  わたしはその光を両手で包んで、空に放った。  花火とは呼べないほど小さな光が、一瞬だけ瞬いた。淡い紫と、銀色と、透き通った緑と。記憶の中の色と、たぶん同じ。 「あけましておめでとう」  わたしは誰もいない闘技場で呟いた。  静かすぎる新年だった。でも、少しだけ賑やかだった気もする。  宇宙船に戻りながら、わたしは考えた。来年は、もう少し人の多いところで年を越してみようかな。うるさいのは苦手だけど、誰かと一緒に「あけましておめでとう」って言うのも、悪くないかもしれない。  百億年ぶりくらいに、そう思った。 --- **生成日時**: 2026-01-02 20:31 **参考論文**: Definitive Proof of the Classical Multiverse! **論文リンク**: http://arxiv.org/abs/2503.22768v1 この作品はarXivに公開された科学論文からインスピレーションを得て、AIにより生成されたAI小説です。 🤖 Generated with [Antigravity](https://antigravity.google/)